ヴォルフロッシュ

ユンカーハウス

Junkerhaus

[photo:Junkerhaus]
名称
ユンカーハウス
Junkerhaus
Junker House
設計
Karl Junker
竣工
1889年
用途
住宅
場所
Lemgo, Germany
訪問日
カメラ
Canon IXY DIGITAL 60

狂気の建築家カール・ユンカーによる自邸。内部の家具に至るまで全てカール・ユンカーの手によるもの。ユンカーハウスに "狂気" の2文字が被せられる所以は、外装・内装共細部に至るまでびっしりと彫刻が施されているためである。

正方形の平面図で地下1階、地上3階。一面の彫刻からおどろおどろしい印象を受けるが、収納なども豊富で十分住めそうである。

ベースはこの地方伝統の木組み建築である。全木造建築で内側にも木がそのまま使われ、一部は赤・緑・黄・青という原色のみにより着色されている。塗料には金属粉が用いられており、近くで見ると控えめにキラキラと輝いている。1階床は石、2階以上は木張り。床には一面幾何学的模様が描かれていたが、すり切れてしまい現存しているのは家具の下など一部のみ。

生涯独身であったカール・ユンカーは最初から最後まで1人でこの家に住むが、ユンカーハウスには夫婦の寝室があり2つの子供部屋も備わってる。これらの部屋は最後まで使われることはなかった。カール・ユンカーは主に3階に住み、2階は使っていない。

来訪者には入場料を取り、ユンカー自ら自邸内を案内をしていた。現在と同じように1階と2階を。生前は余り評価されず、死後このユンカーハウスが空き家になった時も買い手が付かなかった。後に州が修復に乗り出し、現在は専用のミュージアムとともに開放されている。2004年にオープン。

所感

ある日インターネット上で偶然このユンカーハウスの存在を知り、それ以来思いは募るばかり。その内いてもたってもいられなくなり、むりやり旅程に押し込みついに実際に行ってしまった。

住み良さそうな郊外の住宅地に立派な前庭と共にぽつり建つユンカーハウス。実際に足を踏み入れたときの感動は計り知れない。確かに私は空間恐怖症的作品を愛しているが、このユンカーハウスは異常とか異端ではなく、理性的に美しいと感じる。美しい、は違うかもしれない、が、強く感性に訴えかけられる。きわめて理性的に。

生き物の体内の様な、もしくは中世の骸骨寺やグロッタのような一面に施された彫刻と装飾。近くで見ると意外と力強く無骨な彫り方だが、全体を見たときのなんて繊細なこと。特に1階廊下の天井部分やソファの背の透かしの見事さ。彼の木工家具工としての経験が活きているのだろう。また抜群のバランスで構成された、赤や緑や青に着色された木々。正方形のプランにもストイックさを感じる。床の模様は見事なものなのに、所どころ天井に描かれた絵がかわいらしいのはご愛嬌か。

面白いのは、冒頭でも少々書いたが、そのグロテスクさから来る精神的なプレッシャーをのぞけば意外と住み心地が良さそうな所だ。カール・ユンカー自ら細部まで彫刻を施した家具や道具やしつらえは生活に必要な一通り全てが揃っているし、収納も十二分にある。むしろ、全てのインテリアが建築と揃えてあるために、統一感という意味では100点だ。この機能性はユンカー氏のエリート建築家としてのプライドかもしれない。

私はカール・ユンカーの専門家ではないから詳しいことは知らないが(残念ながら現時点でユンカーハウスに関するテキストのほとんどはドイツ語または英語である)、言われているように、彼はまだ見ぬ恋人に恋いこがれるあまり精神に異常をきたしてこのような細部の装飾に走ったわけではなく、彼の美学を持ってして、このような美しい家をつくりあげたのだろう。生前、全てのフロアを使わずに来訪者に料金を取って見学させていたことからも、彼がこの自邸を "作品" として扱っていたことを感じさせる。いくら生涯困らない資金があったとはいえ、誰にも理解されない中、この美学・感性を貫き通したことは、ただ、ただ素晴らしいとしか言いようがない。

澁澤がこの建築を知っていたら嬉々として書いただろう。残念だ。彼に伝えたい。

写真

外観

内観

周辺

アクセス

Hamelner Straße 36, 32657 Lemgo, Germany

街の中心部から歩いて10分ほどの住宅地にある。またはバスで 'Junkerhaus' 下車。

裏にミュージアムが併設されており、入場はそこから。正面玄関からは入ることができない。中はスタッフが案内してくれる。英語可。公開されているのは1,2階のみで、地下および3階には強度的な理由から入ることができない。他、ミュージアム内にカール・ユンカーによる絵や家具、模型などが展示されている。

開場時間
4-10月 10:00-17:00 / 11-3月 11:00-15:00
休館日
月曜, 11-3月 月-木曜
入場料
3€ / 割引 1.50€

# 2006年10月時点

建築家

Karl Junker (1850-1912)
[カール・ユンカー] レムゴ出身の建築家。幼い頃に両親を亡くし、祖父に育てられる。レムゴのギムナジウムで木工家具工を学び、卒業後、25歳にして建築家を志しミュンヘンで建築を学んだ。ミュンヘンの芸術アカデミーからローマ賞を受けその奨学金でイタリアのローマに留学。滞在中ルネサンス、バロックなどのクラシックスタイルの影響を受ける。レムゴへの帰郷後しばらくして自邸の建設に当たる。この頃からユンカーハウスに見られるような細部への執着を見せ始める。祖父から受け継いだ遺産のおかげで、彼は生活費をかせぐ必要はなかった。その作風から精神分裂症ではなかったかとも考えられている。主な作品は自邸のみ。
Wikipedia -Karl Junker

これらの情報は1024jpの訪問時、またはページ執筆時の独自調査に基づくものであり、情報の確実性・信頼性を保証するものではありません。